『感受性訓練−Tグループの理論と方法』より 第4章 「ラボラトリにおけるTグループの歴史」 K.D.ベネの要約

『感受性訓練−Tグループの理論と方法』より

4章 ラボラトリにおけるTグループの歴史 K.D.ベネの要約

 

<前史的ラボラトリのはじまり〜Tグループの基礎をなす諸原理の発生>

 

1946年、コネティカット州教育局の人権問題委員会とマサチューセッツ工科大学集団力学研究所で人権問題委員会が作成した公正雇用実施法の正しい理解と、その順守を促進する地域社会リーダーの養成が行われた。集団力学研究所のねらいはワークショップの体験の効果の測定にあった。つまり参加者の行動変容が復帰後の現場に及ぼす適用効果が何によって規定されるのかを調べたのである。

トレーニングリーダーはコロンビア大学 ベネ、全米教育協会 ブラッドフォード、集団力学研究所 リピットなどであった。当初は、メンバーが持ち込んできた現場の諸問題を、チームとして分析する集団討議やロールプレイが中心で「学習の源泉としてのいま・ここ」の考え方はなかった。

オブザーバーが、相互作用やメンバーの行動過程を記録しスタッフがそれを検討する形で行われたが、たまたま参加者が参加希望し、参加者自身の行動と観察結果についての率直な話し合いが行われることで、トレーニングリーダーと参加者に電撃的な影響を与えた。具体的にはX夫人のリーダーへの攻撃行動をめぐり、さまざまな分析と解釈が出され多くの参加者が参加し、自らの行動や集団行動に深い理解を持つに至った。

ここから参加者が自分の行動やその効果などについての資料を客観的に把握し、防衛的にならずに考察できると、自分、自分への他人の反応、集団行動と発達について有意味な学習可能になることとが明確になったのである。

 

<ベッセルにおける初期のラボラトリとTグループ 47年〜48年>

 

ベッセル市のゴールド・アカデミーにおいて3週間夏期セッションが行われた。ここではBST(基礎的技能訓練)と呼ばれる継続的な小集団が行われた。観察者から観察資料が提示され、グループによってその資料の討議と分析がなされた。ベネ、ブラッドフォード、リピット、コーネル大学ポルソン、カリフォルニア大学シーツ、スプリング・フィールド大学ザンダー、集団力学研究所 フレンチ二世(研究主任)などが参加した。

BST(基礎的技能訓練)とは以下のように捉えられる

(1)「変革媒体者としての技能、諸概念を習得する場所」

自分の職務が他人を援助することである人が、個人・集団についての理解、態度、技能に変化をもたらすために活動するには以下の基礎的技能が必要とされる

①変革媒体者が自分の個人的動機付けや「被変革者」と自分自身との関係について行う評価の技能

②変革や診断的過程の必要なことを「被変革者」に自覚させる技能

③行動、理解、感情を手掛かりにして、変革媒体者と被変革者とが状況を共同で診断する技能

④他人と協力してその問題を決定し、行動を計画しそれを実践する技能

⑤成功裡にかつ生産的に計画を遂行する機能

⑥活動・思考の方法ならびに人間関係などの諸領域において、全体的な進歩が認められるかどうかを測定・評価する機能

⑦すでに達成された変化を持続させ、拡大させ、維持させる機能

(2)集団の成長と発達を理解し援助することを学習する場所

①集団成員間の相互コミュニケーションの卓越性(自由な気持ちで防衛的にならず討議するため、共通理解や発言の意味内容についての敏感さと許容性をもつこと)

②集団の機能様式に対し、集団としての客観性をもつこと(集団がその集団の機能様態の分析と評価を行い、それを許容することができる程度)

③成員としての集団の責任を受け入れること(成員が各自の潜在的な貢献について感受性を高め、励まし合うだけでなく、リーダーシップの機能とメンバーシップの責任とを受容し共有しようとする意志を持つこと)

④集団の凝集性もしくは自我の強さ(新しい成員と新しい企画との同化作用を増大させ、葛藤によって崩壊するのではなく葛藤を活用し、集団の長期的な目標を保持し、成功や失敗から学ぶことができるのに十分な程度)

⑤自らを知り、かつ正しく思考することのできる集団の能力(集団の内外において資源を活用する能力。集団思考の誤りを発見し、それを正す能力)

⑥集団の新陳代謝のリズム(疲労、緊張、速さ、ペース、情緒的雰囲気)を発見し、それを活用する集団の能力

⑦集団成長過程において、意味あるソシオメトリックな諸要因を認識し統制し、それを活用する集団の能力

⑧メンバーの理想、欲求、目標を、集団の伝統、目標、理想に統合していく集団の能力

⑨必要な時に新しい機能や小集団を作りだし、適当な時期に集団の存在を終わらせることのできる集団の能力

 

こうしたBSTグループはいくつかの機能を持つ。つまりBSTは数種類の学習をなすために設計されたものである。

①多少とも体系的な幾組かの概念を内在化できるようにする

@計画的変革の輪郭と変革媒体者としての技能を会得

@集団発達に関する指標、基準

②診断技術、行動技能の実習 ロールプレイ

③行動の内容が集団レベルや対人的レベルから集団相互間(組織、地域社会)の全レベルをカバーする

④ラボラトリの学習を現場に適用しようとするメンバーを援助する

⑤対人間、対集団発達において、自己自身をより客観的にしかも正確に把握できるようにする

⑥メンバーの民主主義的価値についての理解を一層深める

⑦理解と技能を他の人に伝えるトレーナーとしての技能を体得してほしい

ただ徐々に学習グループの目標が過重であることが認識されてきた。

 

<Tグループから「はみでる」トレーニング機能の分離(49年—55年)>

 

48年、49年の春に数回のセミナーが行われた。そのセミナーでの関心事は次のとおりである。

①スタッフ・参加者の中に、科学的、民主的な方法論の研究遂行へのコミュニティを発達

②トレーニングの臨床的アプローチと仮説を立てデータを収集するというアクション・リサーチ的アプローチのバランス

 

このセミナーでの結論は、BSTグループの負担が重すぎるということであった。つまり発達するグループの中で今進行しつつある行動を、吟味・分析するという中心的機能が、その他の機能によって阻害されてしまうことがあった。またTグループ以外のトレーニングには教訓的介入多く、Tグループと矛盾する。トレーナーの役割に矛盾が出てくる。さらに集団が生の経験を理解しようと熱中する結果、その集団に無関係な問題を導入することは、邪魔者として拒絶されてしまう。Tグループだけでは、その中で作られた仮説の検証には不十分ということがあった。

 

<ラボラトリの設計における変化のダイナミズム>

一連の実験を通じてTグループの強みと限界が発見された。まず新しいトレーニング方法やその強調点を生み出すことになったスタッフ間の食い違いが先鋭化した。

 

具体的には49年はより臨床的立場に立つスタッフを招いた。10人中7人が臨床心理、精神医学のスタッフだった。こうした中、フロイト派とロジャース派の行動変容に関する見解の相違があったのを始め、臨床心理の新人スタッフとレヴィン的立場のスタッフの葛藤を引き起こすことになった。

この時、ラボラトリのグループを“Tグループ”と命名した。その上で変革媒体者の概念とその技能の改善はTグループから除去し、現場適用の問題も著しく薄れることになった。

その関心は対人的な出来事、集団的な出来事へ向くようになった。事象を説明する用語として臨床心理用語が多くなり、レヴィン、社会心理学の用語は少なくなった。そして変革媒体者の概念とその技能の改善、現場適用の問題はTグループ以外の時間に行われた。

こうした変化は元からのスタッフには相当な抵抗を見せた。。臨床的志向は拒否していないものの「いま・ここで」の場の事象を取り扱うことがトレーニングと治療の境界線を越えることになるのではと次のように危惧したのである。

①心理治療を受けに来たのではないと考える参加者とスタッフの契約に反する

②深い治療レベルの諸問題はそんな短期間に治療可能か

 

50年のラボラトリでは午後にA(アクション)グループを導入し、同じ職種、社会学的、大きな社会体系の変革の問題を扱った。講義や資料提示などにより、社会変革ならびに社会行動の問題を理解する概念的道具を提供した。

しかし、実際には第二のTグループになりがちであり、Aグループのトレーナーは権威主義的とみられがちだった。ただ、Aグループからの学びも多く、特にBSTの体験を持つトレーナーの学びが多かった。それは次のようなものである。

①構造化されたラボラトリ経験を扱うトレーナーには、集団形成のダイナミクスや成員の適応を認識する能力、これらをより構造化された学習経験の促進に関連付ける能力が必要とされる。共に学び援助していく学習方法が尊重されるラボラトリでは一方的に教え込む方法はダメなのだ。

②学習経験はあらかじめ周到に設計され構造化される必要がある。それは学習者が自由に行動し、分析し、評価するのを援助し、促進するためのものでデザインを学習者と話す必要性がある

 

<ラボラトリの共同体運営〜メンバーシップとリーダーシップ技能のトレーニング>

51年から55年にかけては、ラボラトリの午後のプログラムの内容が発展した。51年には技能グループが誕生した。対人関係、メンバーシップ、リーダーシップ、コンサル技能の一連の実習がロールプレイや観察で行われた。

そこでは次のような諸変数の関係について一般化を導かれた。

・集団目標の明確さ(欠如)が集団の組織化に及ぼす影響

・受容と拒否がメンバーの行動に及ぼす影響

・他のメンバーに援助を与える過程

 

この技能セッションはTグループとの関係を持たなかった。そしてラボラトリの社会ではTグループのトレーナーに高い地位が与えられたため午前と午後のスタッフの対立、緊張が生じ、統合が必要となった。56年から今までのラボラトリの歩みはその統合的関係の発展が起きた。

 

<変革媒体者の技能と知識についての学習>

ラボラトリの全参加者は変革媒体者として考え、討議し、行動することを学習するよう期待されていた。個人、対人、小集団行動のそれぞれのレベルの変容過程に力点置くことが可能である。ただ、現場適用のためにはより大きな社会体系での変革過程に関する理解と制御が必要となる。つまりTグループでの学習を生活場面に転移させるには、より大きな社会体系の変革について診断し、促進する技術の発達が必要とされる。

 

最初の数年のベッセルのラボラトリでは、ラボラトリ共同体の形成と再形成の過程が共同体学習のために不可欠と考えられた(Tグループにも比肩する深さと強度を持つもの)。48年〜51年にはスタッフと参加者が共同で行う委員会がラボラトリ共同体の構造ならびに実習に必要な変更についての決定を行った。

 

しかし51年からこの委員会は中止された。それは参加者からスタッフへのコミュニケーションと影響の通路を設けようという委員会の意図が、代表制に基づく委員会構成によってはうまくいかないことがあったこと、さらにTグループの時間に委員会の議題が持ち込まれることがあり、Tグループを阻害したこと原因である。

 

52年、53年には共同体の形成、ラボラトリ的文化の発生について資料収集を行うため社会学者が参加したが、速やかに規範が形成されたため解明できないで終わった。

54年には議論の分かれる問題についての決定にいたる諸過程の中で、ラボラトリ全員によるロールプレイが行われ、集団間のソシオメトリーや影響に関するデータが収集された。地域社会の変革に関心を持つ変革媒体者の視点によって参加者とスタッフによって分析された。しかし次のような批判が発生した。 

①Tグループとの関係が欠けている。ロールプレイではあやつる、隠す行動が起きる

②Tグループの経験をより大きな社会体系における影響、意思決定、変革についての学習にどのように統合できるのか

 

<ラボラトリ学習の成果を復帰後の場面に適用するためのトレーニング>

復帰後の現場に対する適用のためのトレーニングについて、Tグループがこの責任を取らないことから、それに代わる形式を開発すべきという議論が生じた。47年、48年には復帰後の現場に対する適用にBSTの重点がおかれ、別グループが編成された。

具体的には同じ職業の人のグループがラボラトリの後半に数回の会合を持ち共通の重要な研究課題を話し合った。ただ、多くのグループは有意義な学習成果達成できなかった。職業などが同じでも、メンバーに認知される問題は類似していないからである。

49年には上記のグループ活動を評価する基準が確立された。コンサルテーションプログラムである。参加者が援助が必要な復帰後の諸問題のデータをラボラトリ中に彼らから収集し、問題領域ごとに参加者を分類し、その問題に知識・スキルを持つ助言者と組み合わせた。例のような本質的で命題化された問題ほど魅力大きい結果となった。

例 ヒエラルキーの中で部下が上層部に影響を与えるには?

  集団に変革を起こす時の倫理的葛藤にどう対処するか?

 

ここで生じた困難な問題としては次のとおりである。

①上記援助を授受する過程で、経験や理論づけが欠如していた。

参加者の多くが(ゴールドナーのいう)組織・地域変革に「クリニカルモデル」を適用するのに不慣れであった。「エンジニアリングモデル」では(専門家が)クライアントの問題を受け入れ、その事実と像を適切な形につくりかえて有用なものにするが、「クリニカルモデル」ではクライアント自らが問題を明確化し、それを処理する方法を発見しようと努力することを助ける。

またより大きな社会体系における変革の問題やその過程を診断し、変革の方略を立てるための概念的道具が必要とされた。最初のBSTグループではこうした要望に答えようとしてきた。そして52年以降、技能実習の焦点は小集団内でのメンバー、リーダーの役割におかれる傾向が生まれた。期間が短いので現実的な目標を重視したのと、Tグループ経験と密接な関連を持たせるためである。

②集団そのものを限られた時間内に処理する必要

集団が感情や反応を率直に分かち合えるような信頼感をはぐくむには時間が必要であり、コンサルグループが機能するにはこうした雰囲気が必要であった

③変革媒体者としてのメンバーを支援するには、その成員が持つメンバーシップの型、他者への影響力についての知識が必要とされるが、短期のグループではこうした知識が得られない。

 

<認識的、イデオロギー的な概念内容のコミュニケーション>

47年のスタッフがBSTグループに本質的と考えた概念化の3つの領域は次のとおりである。

①行動変容の過程とその過程における変革媒体者の機能についての概念

②集団発達とリーダーシップ、メンバーシップの機能についての概念

③成長(変革、再教育、問題解決)の過程において人間が協働するための方法論上の原理として操作的に定義される民主主義の概念

 

全体集会で参加者の経験や思考に、付加的な概念をインプットするよう設計され、4748年には3つのインプットがなされた。

①調査計画の理論とともに参加者自身からのデータを自分自身で討議

これによって参加者と研究チームの敵意を軽減するとともに、参加者たちに、社会科学がどのようにして人間の問題を研究し、調査を進めるかを理解してもらう。また参加者が自分自身の行動について、研究チームの体系化されたデータと直面し、フィードバックの目的を理解する

②全体集会は集団やメンバーの問題を探求し処理するための研究方法をメンバーに熟知させる。ロールプレイ、集団観察法、フィードバック法などである。

③現在の社会問題に関心を向ける。問題解決のための診断・協働的計画立案のモデルを提供する。例として原子力エネルギー、民主主義と他の社会統制方法などがある。

 

近年は全体集会を概念的インプットに使うことは少なくなっている。それは大きな社会問題の探究、現場適用よりもメンバー相互の援助的関わりが優先されることが多いからである。イデオロギー的社会問題は54年以降ベッセルのラボラトリでは行われない。

 

49年にはパーソナリティと小集団の知見の提示がなされた。例としては組織変革、変革媒体者の倫理的問題、現場適用などである。50年は小集団におけるリーダーシップやメンバーシップの問題、社会変革の諸過程などである。これらはTグループとほとんど関係がない

 

<Tグループの飛躍的発展>

Tグループの諸目的に改めて焦点が当てられた。3つのレベルの学習①自己②対人関係③社会体系としての集団の機能化と発達のうち、トレーナーがどれに対し重点をおくかによってある程度左右された。

 

方法論や社会的構成によってTグループに差異が生まれた。

(1)フィードバックの過程

当初、観察者など決められた人が、決められた時間でフィードバックをしていたが、形式化への不満が生じた。必要な事象が起こったときすぐにフィードバックできるようにトレーナーが役割モデルを果たしていた。55年以降は、フィードバックは、諸問題への継続的なアクション・リサーチの一部であることを全員が認める有機的編成が普及した。

 

(2)トレーナーの役割

レヴィンの伝統であるアクション・リサーチのモデルでは集団の操作を協働的探求の一過程とみる。つまり集団討議の中に適切に確かめられたデータをできるだけ多く得られるように集団を援助する。このモデルでは介入の程度、タイミング、感情・価値を率直に表現するところなどが成員と似ているので、トレーナーは徐々に集団の中の仲間になっていく。

一方、臨床心理学(精神分析学)のトレーナーは、データに含まれる歪曲の根源を探る。トレーナーは集団の中での「投影スクリーン」となる。つまり権威者の像として仕立て、自分のありのままを出すことを回避する。歪曲を集団の援助のもと、トレーナーの手で解釈、分析することで事実に目を向けられると考える。このモデルではトレーナーは一メンバーにはなれないし、Tグループ以外の場でも交わらない。

 

55年に上記の異なる立場のTグループが行われた。こうしたトレーナーとメンバーの関わり方の違いは、機能の様態も異なるし、学習内容だけでなく、学習の過程も違う。

 

<Tグループのラボラトリ設計への再統合 56年〜>

 

Tグループの最初の改良は、若干の学習目標に合ったトレーニング方式と技術の開発であった。こうした分離の中で、ラボラトリ法の種々の変形が開発された。

ラボラトリの価値の中核は統合的学習への主体的関与であり、分離をよしとせず再統合へ向かう動きが起きた。3つの統合パターンは以下の通りである。

(1)Tグループをラボラトリ経験の中心にするもの

小集団現象の学習と個人内、対人間の諸問題の明確化と解決を学習の主目標に、Tグループの中でそれが必要とされている時点に近い時期に提示を行う。また技能実習ではTグループ学習を最適なものにする探究の手段をより鋭利にする観察、フィードバックの技術が取り上げられた。これはTグループの学習目的にそぐわない学習目的を最小限に抑える形で統合したものといえる。方法に合わせた学習目的のみを採用している。

(2)ラボラトリ初期に確立された学習目的の全領域が妥当性を持つもの

Tグループは生活の場の変革の問題について相互に援助しあうように用いられる。Tグループは変革媒体者としての技能の実習や、変革に関する諸概念の明確化や適用の1手段としても役立つ。同じく組織の協働や葛藤の諸過程を生み出し、分析する際にも用いられる。

(3)種々の学習目標・目的に応じて違ったトレーニング技術とグループ編成

学習を復帰後の生活場面に生かすことへさまざま部分間の関わりを確立、統合する。

 

<再統合のダイナミックス>

初期のBSTグループからTグループを分化させる要因として次のことがあった。

①新しいトレーニング技術、形式を実験してみる

②背景・考え方の違うスタッフ間の葛藤を多少なりとも解消する

 

最近のラボラトリの革新としては次のようなものがある

①職業的背景を同じくするラボラトリ

役割、組織行動が自分の職場の状況を理解し、その中でより適切に機能することができるように援助される学習に沿ったカリキュラムを重視する

②大学のセンターの地域ラボラトリの開発

③修了者のためのプログラムの発展

コンサルタントや管理者の技能向上を主目的とする。トレーナー養成ではない。変革体を学習するための教科課程の教材や方法ならびに設計についての実験を刺激する。これらは基礎的なラボラトリ設計にフィードバックされる。

 

また専門的資格を持つトレーナーの必要性が増大した。それはトレーニングの分野に私企業が増え、専門的資質の基準の確立が求められたからである。当初NTLはトレーナー見習システムに頼っていた。

ラボラトリの経験に先んじて基礎的または応用的行動科学の何らかの領域で博士号が望ましいとされていた。見習いは大体この基準に合致していた。(心理学専攻が多い)トレーナー訓練の修了生プログラムが55年にベッセルで開催され、ヨーロッパ26人の社会学者、教育学者のチームを人間関係トレーナーとして訓練した。自国の産業場面で、ラボラトリトレーニングを実施するためである。

このトレーナー養成プログラムの発展はラボラトリの目標や過程についての考えをまとめ、成文化する作業の必要性を増した。例えばスタッフの訓練に関する見解の相違を埋め、問題を発見するためである。これは59年まで継続した。

 

60年、NTLでは人間関係トレーニングの分野を専門化する必要が生じ、より包括的なインターン・プログラムを実施した。他のトレーニングなどを行う大学に籍を置くトレーナーの資質向上を援助するためである。博士号を持ち、他者・集団、組織体に対し援助的関係を発展させ処理する素質のある人が対象となり、①基礎的ラボラトリに出席し②観察者を経験し③副トレーナーとして協力した上でトレーニングセッションの設計・運営についての実習経験が提供された。またその他組織、宗教、行政団体など大学に籍を置かないトレーナーの開発も行われた。

 

NTLの西部トレーニングラボラトリでは一般教養の継続の性質を持つ職業的ではないものが行われた。基礎的ラボラトリの経験の中で始まった探索の過程をより深く洞察することが目的である。こうした何回か参加することが前提なら、基礎的プログラムに何もかも詰め込む誘惑はさけられる。(2回目以降は)1回目のラボラトリで学んだことを試し、準備する期間として考える

 

<概念的内容の提示>

基礎的ラボラトリの傾向として、Tグループ経験をラボラトリ全体の設計の中に再統合することに向けられた。理論セッションは51年から復活した。Tグループメンバーのその時点での大多数の欲求にいっそう即した内容が提示された。日々提示される一連の概念に内的一貫性を与える必要が考えられた。ただ、1人が責任もって提示する方法は廃止になった。

 

第二の統合パターンのTグループ((2)ラボラトリ初期に確立された学習目的の全領域が妥当性を持つ)での理論提示は以下のような共通のものであった。

①ラボラトリの初期 個人と小集団のダイナミックス

②ラボラトリ中期 (Tグループで組織や地域社会の経験を発展させることに時間)   組織のダイナミックスと役割のダイナミックスの理論

③ラボラトリの終期 変革、変革媒体論ならびに実践のアイディア

 

スタッフの概念的提示の効果についての評価として、治療的性格を重視するスタッフは理論セッションを疑問視した。統合の第一のパターンのラボラトリでは理論セッションの時間は減り、なくなる傾向があった。一方アクション・リサーチモデルのトレーナーは問題を診断し、解決をテストし評価する道具として妥当な概念を参加者が必要としている点を強調した。実際場面での苦しい現実を処理することを援助するトレーニングの問題である。

 

こうした理論提示に関するスタッフの見解の相違を解決のために次のことが重視された。

①ラボラトリ教育でもっとも重要であると考えられる価値や目的についてスタッフ間の見解の相違を直視すること

②参加者にラボラトリにおける社会科学の概念を伝達する各種方法の効果を研究

 

初期のベッセルでの概念的インプットは記述的であり、イデオロギー的であった。Tグループでは価値志向が葛藤状態にある。それでイデオロギー的インプットから遠ざかった。

 

ラボラトリスタッフを2分する問題として参加者個人の性質に関するものがある。第一の見解では個人は自分自身や他人の人生に対する自分の価値を再点検し、再構成していく際に、もっとも有意義に関与していくと考えられた。人間とは実存的存在であり、真実の人間とは役割・地位(個性と対置)を取り去った私的個人である。同一性を確立し、主体的関与を明確にすることは、個人の達成すべき課題なのだ。重要な再方向付けは、ラボラトリの外の場面で人々をがんじがらめにしている役割や地位から解放された状況の下で、自分を一個の人間として見つめるように援助される時に生じる。こうしたトレーニングの焦点は「自分自身の人生観」であり、それは「いま・ここで」の中で表明される感情・行動という言葉で確実に露呈される。イデオロギー的問題の考察は、こうした価値への関与のやりなおし過程を阻害する。

 

第二の見解では人間は生物的個体でもあり、諸々の役割の構成体でもあるとする。1人の人間として自分自身に対決することは、他人の援助を得て自分のさまざまな役割の矛盾や葛藤を解決すべき自分の問題として受容できる時に可能となってくる。こうした解決は役割からの要求、要請を離れては生じない。役割と役割、役割と自分、自分と役割の中でなされる創造的な自己適応の中に生じる。「ラボラトリの学習や経験を現実生活場面に適用する」問題に深刻に直面する時、はじめて価値の方向付けという問題が、参加者の最も重大な関心事となる

 

中心的な人生観の明確化と再方向付けをラボラトリの第一次目標として受け入れる人は、職業的役割や仕事上の役割の中で機能している参加者の問題に焦点をあわせる別のラボラトリのいき方に疑問を感じていた。

 

 

<グループメンバーシップとリーダーシップの技能訓練>

56年のラボラトリでは、51年以来別々になってきた技能実習とTグループが統合された。半数のTグループをグループメンバーシップとリーダーシップの技能訓練にあてた。トレーナーと副トレーナーは午前が終わって、今必要な技能実習を討議、決定した。この実習はTグループとの密接な関係にあった。

 

<より大きな社会体系のダイナミックスに関する学習>

突破口は57年で西南地方人間関係トレーニングラボラトリであった。シェリフ夫妻の少年キャンプの集団間葛藤の実験的研究を参考にラボラトリを行なった。Tグループが自らの同一性確立後、勝ち負けの競争をした。具体的には作品を生み出して優劣をつけた。このグループのデータ収集することが、集団相互間の関係についての重要な学習をもたらした。

60年のアーデンハウスのNTL講習会では協働的組織の研究が行われた。競争関係にあった2つのTグループが挨拶状づくりの1つの協働的組織づくりを行った。これが第2のタイプである。

組織行動と変容の学習、自己や対人関係についての学習を統合する第3のタイプはカナダ・アルミニウム会社のラボラトリであった。第一週はTグループを強調し技能実習をする。第二週はTグループが減らされ、事例の討議や分析を行い、組織体の変革の問題にも焦点を当てた。第三週はTグループの中で、ラボラトリの学習を復帰後の参加者の生活場面に応用し変化を生み出す問題を取り上げた。トレーナーはラボラトリ発展の諸段階で、自己、集団、組織についてのラボラトリ学習の統合を促進した。最終週は、ラボラトリという文化的孤島と復帰後の生活場面である文化の本島の間の橋渡しが中心的関心になった。

 

<変革媒体者としての技能の学習と復帰後の応用のための計画立案>

5758年にはスタッフ、アクションリーダーのための修了者プログラムが行われた。計画的変革の概念と外部のコンサルタント、内部管理者など変革媒体者の機能という概念中心に編成(SALグループ)された。ただ、実際にはSALグループでもTグループに似た過程が発生した。具体的には変革の問題、戦略を立てるために交互にコンサルタントになった。

 

このプログラムの基礎的ラボラトリの設計への寄与は次のとおりである。

①ラボラトリの場面で学習できる変革媒体者の技能がどんなものか明確になった。資料などが整備された。

②技能訓練を復帰後の現場の問題追及と統合した。変革媒体者の技能実習が可能なことを証明した。

③変革媒体者の技能実習、診断・立案のために発達しつつあるTグループを利用した。

 

第二のタイプの統合のいま一つの形式はカナダ・アルミニウム会社のプログラムである。最初は、理論・技能実習をやりながら、Tグループを中心にして行う。Tグループが再教育のメディアとなってからは、Tグループで変革についての研究、変革媒体者の技能実習、復帰後の実生活場面での問題について相互援助を行った。

 

第三のタイプの統合では第一週はTグループの場で自己や小集団についての学習が行われ、その後応用グループを編成した。次の二週間、応用グループのメンバーが、復帰後の実生活場面のいくつかについて、互いに援助を与えあうように機能した。成員は時間がたつにつれてTグループで体得した洞察をテストする場として応用グループを活用していった。

 

<ラボラトリへの再統合におけるTグループの運命:主題とバリエーション>

 

Tグループ運営の中心的主題が17年の発展の歩みに明らかになってきた。これはメンバー全員が相互に学習の促進に専念するグループであり、学習の主な内容は「いま・ここで」の行動的事象の中で展開するグループやメンバーの経験である。メンバーはそれぞれ観察者=参加者、診断者=行為者、計画者=執行者=評価者、理論家=実践家、感情の表明者=批判者、援助者=被援助者として機能を果たすよう励まされる。日常的には上記の参加の機能は分離されていて、反応の不統一、断片化が起こっている。この反応の全体性の喪失は、人格的成長と社会の進歩を支える努力の「コミュニティ」としての質を失わせる。Tグループ経験はメンバーの反応の型に見られる不統一や分裂の諸領域に彼を直面させる。思想、感情、評価、知覚、行為におけるみずからの不統一性の基礎を他者の援助によって理解するようになる。各成員が理解と成長に対する他人のいくらか独自な探求に援助を与えるよう強制される。

 

このTグループのバリエーションは、学習の強調点の相違、理論の相違によって生じる。ラボラトリの再統合がもたらしたTグループへの主要な問題提起は、その利用範囲の再考察であった。

Tグループは、少なくとも「いま・ここ」での集団内のエピソードや事象に焦点をあわせることにより、自己・対人関係・小集団の機能について学習を達成する上で重要であることを否定するものはない。これは実証済みの事実である。

Tグループの相互交渉過程は、より大きな社会体系のダイナミクスについても付加的学習をもたらせてくれる。Tグループはより広範な再教育的効果を目指す弾力的方法である。でも、Tグループの最も良い使い方は何だろうか?

 

Tグループのバリエーションは多種多様であり、対極の以下の2つの運営技術がある。

①正常人に対する治療。カリフォルニア大学で開発され、ウェシュラー、マサリック、タンネンバウムが行った。

感受性訓練は、文化的標準によれば「正常」であるが、実際にはこの文化的標準そのものによって複雑・微妙に影響を受けている人間の人格的成長を促進する方法であり、個人の全人格をたかめる方向を目指すものである。

価値観と取り組むところからスタートし統制、怒りの感情、愛情を受け表現する能力、孤独感、個人的同一性などに関心を向ける。集団的変数への関心は小さく、個人のダイナミクスやより十全に機能する人格を発達させることへ相対的に移行する。

対人関係の機能の向上よりも、自己および他者と自己との関係の理解に関心を持つ。個人的問題に対する短期の関心から、人格的成長という長期の観点へ移行する。

「正常」な行動の一般的定義は、男女を継続的なロールプレイングな生活に導く。つくろった外観や役割に終始する人は、人間の相互的なやり取りの中でつくろった外観と役割にしか出会わない。人間と人間の開放的な真の出会いは、「文化ゲーム」の規則の外側で生じる。文化ゲームの規範にとらわれている「正常者」は対人関係の中で孤立し、疎外される。人格の真実性に向かおうとする衝動は、人間本来のモチベーションでる。正常者は自己の内部でも疎外される。感受性訓練は、真実の対人関係に対する関心を参加者に提供し、人間の対決や出会いを通じて自己発見の過程が実習され、重んじられる。「文化ゲームからの休息」と言える。その成果は強化された自我や改善された自己像である。これがTグループ経験を重視する第一のタイプの統合パターンである。

 

ウェシュラー、マサリック、タンネンバウムによるとトレーナーは自分の介入を選択する際にいくつかの選択肢の中から1つを選ぶ必要があり、グループの方向性を決める大きな影響を持つ。トレーナーは彼らの行動の持つ衝撃を否定するのではなく、それを直視することが重要である。当初はグループが効果的に機能するうえで、構造が果たす役割について分析し考察することができるよう援助する。構造の欠如の中で生じる感情に気づくようにする。

 

これはパーソナリティを重視する立場である。トレーナーのパーソナリティダイナミクスが、彼の介入内容やスタイルの形成に非常に影響する。トレーナーの介入の性質は、知的な考慮以上の何ものかに基づくものであり、パーソナリティのダイナミクスが主要な決定要因となる。トレーナーは敵意、怒り、愛、恐れ、不安、希望などの強烈な表現を含む強い情緒的出会いに時折直面しうる意志と資質を持っている必要がある。トレーナーは不安になったり、妨害されたり、当惑したりすることなく、トレーナー自身やメンバーにそうした感情が生じた場合、それに直面し、処理し、時に自らの感情をグループと分かち合うことができる必要がある。

 

感受性訓練と心理療法は密接な関係にあり、訓練と治療との差異は不明瞭である。いずれもメンバーが自分自身や他人の機能の仕方に対する感受性を向上させ、歪曲や盲点を修正することに関心を持つ営みである。トレーナーの重要性が強調される。個人の成長可能性を現実化し、個人が心理的損傷をうける危険を軽減するには、高度の専門的臨床的能力、目的への献身、人間福利に対する純粋な関心、実験と評価に対する不断の自己投入、この活動の潜在的危険性に対する認識眼が必要とされる。

 

②道具的Tグループ 

ウェスタントレーニングラボラトリ開発され、エッソで発展した。トレーナーはグループに参加しない。グループでは参加者自ら実施する一連の道具が導入され、この道具に回答することによってすべてのメンバーが提供するデータが分析・収集され、フィードバックが起きる。こうしたフィードバックとグループの成長が、メンバーの学習についての方向舵の役割を果たす。

その理論としては「ジレンマ—工夫理論」がある。当初は構造の取り除かれた「ジレンマ状態」に立ち向かう。その中で実験と工夫と再考を試みて、彼らの仮説の再構成を行う。グループ内でのフィードバックモデルを早期に確立することが強調される。

トレーナーのいるTグループでは、トレーナーがグループ内で生起する重要な事象に注意を喚起してフィードバックに援助を与える。またメンバーがグループ活動の参加的観察者となる条件を作り出し、そのモデルを提供する。つまりフィードバックモデルを確立する役割を果たす。

道具的グループでは、フィードバックは尺度、測定用紙の助けを借りて行われる。評定尺度、チェックリスト、順位評定などである。これによって直接的フィードバックの頻度は少なくならない。かえって増大する。評定尺度としては、グループ構造の型、メンバー間の相互支持と信頼のレベル、メンバー間の平準化の程度、グループの業績、グループの発達、グループの凝集度などがある。チェックリストとしては、意思決定の際にグループが用いる手続き、雰囲気を説明する言葉、話題のタイプがある。この2つの量的データが集計され、集団の状態について自己診断・自己評価を助ける。順位評定は例えば影響力などの個人行動のある種の側面から、グループ内のメンバーを比較し、自分自身の認知と他者の認知との間のギャップが測定され討議される

 

これはアクション・リサーチのモデルである。自分自身やグループに関するデータを分析・収集し解釈することで、グループやメンバーシップについて学ぶ。だからラボラトリの外でも容易に活用できる。転移がふつうのTグループより容易である。第二のラボラトリの中に統合される。Tグループは各種の学習を行う一つの方法となる。スタッフの介入はアクション・リサーチの道具の準備、全体集会でのフィードバック、発達グループ間の競争や協力の準備などとなる。

 

<要約的な論評>

 

今日の時点で、時にトレーナーの努力を分裂させることになりがちな2、3の主要問題がある。第一は一般的人間関係ラボラトリと職業的ラボラトリである。

一般的人間関係ラボラトリは職業的役割よりも、もっと密接に個人にかかわりを持つ諸々の役割の要請の間の不統一や個人内部の諸問題に焦点を当てる「正常者のための治療」である。一方職業的ラボラトリは課題的側面を強調し、よりグループ中心的となる。

 

第二にトレーニングのアクション・リサーチモデルと臨床モデルである。臨床モデルのTグループには次の特徴がある。

①予測不可能性

メンバーとメンバー、メンバーとトレーナーの実存的出会いは前もって予想できない。メンバーの生活歴とグループ状況において独自な個人の間の出会いの困難さがある。感情的レベルの経験に関するデータが集められ問題が明確化される。

②腹の底からの理解

信頼がおかれるのは、グループの中で生じた「腹の底」からのメンバーの経験とそこからでてきた諸体験である。

③日常への転移

効果的な転移を生じさせるものは、メンバーという人間に内在する人格的統合の成長である。人間が自分自身に対し、自分のより純粋な思いがけない姿を発見し、他人に対して真実なかかわりを持つことができる人は、こうした個人的学習成果を彼の生活の種々の関係の中に転移できる。転移は他の諸関係の中で、人格的成長の1つの継続的過程である。

 

一方アクション・リサーチのモデルには次の特徴がある。

①予測可能性

有意義な領域のデータは前もって予想でき、準備できる(道具の準備)。量的データを求める。

②必要な要素の理解

データ収集、分析、適用という概念やそれと関連する技能は、メンバーが出会っている諸問題に対して彼らが行うアクション・リサーチの必要な要素として準備される

③日常への転移

適切な概念や技能の習得、人間相互間、集団内、集団相互間などの状況の中で問題点を明確にし、また診断する際にこれらの概念や技能を用いるという発達的な習慣により多くの信頼を掛けている

 

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