コルブ『経験学習』の第2章まとめ

第2章 体験から学ぶプロセス

 

・体験から学ぶ理論は経験的な認識論にベースをおく行動的な学習理論などと根本的に違う観点を提供してくれる

@2つの理由から「経験的」と呼ばれる

一、デューイ、レビン、ピアジェの仕事に知的源流を持つ

二、学習プロセスに経験が中核的な役割を果たす

@合理主義者や他の認知的な学習理論との違い=獲得、操作などに強調をおくかどうか

@行動主義、認知主義に対する第3の理論というよりは、その全体的統合的視点を持つ

 

・この章ではデューイ、レビン、ピアジェの学習モデルを描写し、その共通点を探る

 

経験から学ぶ3つのモデル

 

1、レビン派のアクションリサーチとラボラトリートレーニングのモデル

 

・アクションリサーチとラボラトリーメソッドのテクニックでは、学習、変化、成長は、いまここの体験から始まり、その体験の観察とデータを集め統合することで促進される

@学習は4つの段階のサイクルとしてみられる

@直接的具体的経験が観察と内省のベースとなる

@観察データが理論へと昇華され、行動を導く新たな示唆(仮説)となる

@これらの示唆(仮説)が新たな経験を作る行動を導く

 

・2つの側面が特記に値する

一、いまここでの直接的な個人的な具体的体験が学びのポイントになる

二、フィードバックプロセスに依拠する

@レビンはフィードバックプロセスの不足が組織や個人の有効性を失わせると考える

 =これはゴール志向的な学びのプロセス

@レビンは観察と行動のアンバランス

 

2、デューイの学習モデル

 

・レビンのものと似ているが、衝動と感情と具体的経験をよりハイレベルの目的追求の行動に変容させるかを記述している

@この変容は複雑な知的作業が含まれる

一、周りの状況の観察

二、過去の似た状況で起きたことの知識

三、判断 最初の衝動や欲求が状況の観察などによって違う目的に変わる

@教育の決定的問題は、観察、判断が入るまで欲望に基づく即時的行動を抑制すること=より正確な予見が可能になる

 

デューイの体験学習のモデルは、①衝動:反省的思考と同様に体験の中で湧き起る好奇心や困難を乗り越えたいという衝動からはじまり、②観察:周囲の諸条件の観察、③知識:過去の類似した状況で起こったことについての知識(一部分は回想によって得られた知識、また一部分はより広い経験をもつ者の情報、忠告、警告から得られた知識)、そして④判断:観察されたものと回想されたものを結合する判断へと続く。そして行動に移され、あらたな体験の中で衝動が生れれば次の過程に進む。これらの過程は行動の結果を先読みすることによって行動の計画と方法が決められる。

 

3、ピアジェの学習と認知の発展モデル

 

・経験、概念、内省、そして行動は大人の思考の発展における基礎的な連続

@学習プロセスは、個人と環境の相互作用が生じるところで発展する

@学習の鍵は、概念や世界を経験するスキーマの適応(調節、調和)と世界からの経験と出来事の既存の概念やスキーマへの同化(統合)

@学習(ピアジェの用語では知的適応)はこれら2つのプロセスのバランスのとれた緊張から生じる

@適応プロセスが、同化プロセスを支配してしまう=結果として模倣が生じる

@同化プロセスが適応プロセスを支配=現実にかかわりのない概念やイメージにとらわれ

 

ピアジェの学習と認知発達のモデルは、①具体的な現象論、②内的なふりかえり、③抽象的な解釈、④行動的な自我(自己中心主義)と進む。そしてそれぞれの局面を進む際、有名な認知発達のステージを踏むと言っている。


まず、感覚運動期は④から①へと向かうステージで、「頭で考えるというより、動作を含め、感覚に依存しながら考えている」段階であり環境がアイディアと意志に大きな影響を与える。ここでは、具体的かつ行動的な学習スタイルが主である。二つ目の前操作期は、頭の中で直観的に思い浮かべて考えることはできる段階で、①から②のステージであり、世界への基本的なスタンスが拡散的である。そして、分類や関係性の論理が占めている。三番目の具体的操作期では知識は象徴する言葉で表され、現実の体験から完全に独立した内的な操作が可能であり、②から③の段階へと進む中で行われ、概念や理論が適応される過程で学習が進む。四つ目の形式的操作期では形式的、抽象的操作が可能になり仮説演繹的思考ができるようになるステージで、③から④へと進む中で起こり、行動的な姿勢に戻り先行するふりかえりや抽象化する力によって修正される。

 

・0〜2歳 学習は衝動と反応の連合から生じる

・2〜6歳 内省を発展 イメージを操作することを学ぶ

・7〜11歳 抽象的シンボル=直接経験の世界から独立する演繹の力

・12〜15歳 内省と抽象化の力の発展に基づいた行動指向性 仮説—帰納中心の収束

 

経験からの学びの特徴 ・これらには共通性が多い

 

1、学びを結果の用語ではなく、プロセスとして認知する

 

・行動主義理論

@ある要素の連合がいろいろな考えのパターンを作る

@事実や習慣の貯蔵庫=学んだ量は推し量れる

 

・経験からの学習理論

@学びとは経験によって常に概念が変更されるプロセスとして描写

=経験が常に介入するので、2つとして同じ考えはない

=学びとは生成のプロセス

@この観点からいえば、「結果の言葉」で学びを定義することは、概念が変化しないこと=学びが生じていない(失敗した)ことになる

@教育の目的とは知識を記憶すること(バンクモデル)ではなく、知識を得るプロセスにおける問いとスキルを刺激すること

 

2、学びとは、経験に基礎をおいた継続的プロセス

 

・知識とは、学び手の経験によるテストによって継続的に取り出される

@デューイの経験の継続性の主張=後の経験に影響を与え得る経験

 

・学習=期待と経験の相互作用から生じる

@世界を安定ととらえる=期待が正しい世界=不確実性にふた=ドグマ主義に陥る

@世界を非継続的にとらえる(懐疑主義)=効率的行動がとれない

=部分的懐疑主義

 

・すべての学びは、再学習

@教育者=考えを変えていく人=学び手の信念、理論を明確にし、しらべ、テストし、新しい考えを統合=促進的

@統合される=安定的

@置換されてしまう=その考えと実際に使っている「実際の理論」との矛盾

@学ぶのが困難な人=すでに存在する実行理論と新しい理論の間にトラブルがある

 

=学び手にいままでのものを捨てさせ、新しいやり方考え方に置き換えるのでなく、いままでやってきたことと統合させることが重要

 

3、学びのプロセスには、弁証法的に対立する世界への適応のモード間のコンフリクトの解決が必要


・3つのモデルでは世界を扱う対立的な方法についてのコンフリクトが描写

@レビン 具体的経験と抽象概念

@デューイ アイディアに動く力を与える衝動と欲望に方向性を与える理由

@ピアジェ アイディアの外の世界への順応と既存の概念体系への経験の同化

 

・学びとはコンフリクトをはらんだ緊張という性質=新しい知識、スキル、態度を獲得するには4つの経験学習のモードに直面する必要

一、具体的経験能力(CE) 自分自身をフルにオープンにバイアスなく新しい経験に没入させる

二、リフレクティブ観察(RO) 多くの観点からふりかえり観察する

三、抽象的概念能力(AC) 観察を論理的で安定した理論に統合し概念化する

四、アクティブ実験能力(AE) 理論を判断と問題解決に使う

 

・2つの主要な学習プロセスの軸

一、出来事の具体的経験と抽象的概念化の軸

二、アクティブ実験とリフレクティブ観察の軸

 

・これらのコンフリクトのために、支配的モードができると学びの傾向が生まれる

@例 適応プロセスが支配的=学びとは模倣になる

 

・さめた観察の目と巻き込まれの両立

 

・高い発展の段階においては学びと創造性を実現するには4つの適応モードの統合への強いニーズが生じる

@学びとは創造である

 

4、学びとは世界への適応のためのホリスティックなプロセス

 

・学びとは人間の単一の機能(認知や知覚など)についてのものではなく、全体的有機的な統合された機能、つまり考える、感じる、知覚する、行動するが含まれる

@行動科学は特定の機能に焦点=統合された知識を得られない

@学びは人間の適応の主なプロセス=学校だけでなくどこでも、人生のあらゆるステージで生じる

 

・学びとは人間の機能の全体的統合

@問題解決プロセス、意思決定、創造性などと明らかな類似性がある=学びとは別の名前で呼ばれている

@学びは時空の広がりの違いでいろいろな名前で呼ばれている

 パフォーマンス 短期

 学び 中期

 成長 長期

 

5、学びは人と環境のトランザクションを含む

 

・伝統的な教育プロセスでは、学びは個人の内的プロセスとして結論づけられ、本、先生、教室という限られた環境しか必要ないとされ、本当の世界の環境は拒否されてきた

=心理学の学習と発達研究にも類似性がある

@刺激—反応パラダイム 

 一、環境から制約を受け行動に至る=環境からの一方通行

 二、特殊な実験状況 真の環境からかけ離れる

@発達心理学でも同様の状況

 

・経験学習理論における人と環境の関係

@経験という用語=2つの意味を持つ

一、主観的=個人的な内的な状態 幸福を感じる経験

二、客観的=環境的 彼はこの仕事について20年の経験を持つ

@デューイ この2つ非常に複雑な形で相互浸透、相互関連している

@人と環境の関係はより有機的で変化し、包含され、相互浸透する関係

@相互性の概念が人と学習環境との間のトランザクションを決定づけるというのが、経験から学ぶラボラトリートレーニングメソッドの中心にある

@Tグループにおける学びは、単に固定的環境への応答ではなく、学びのねらいにあった学び手の状況による積極的な創造である

@学びとはこうした意味で、積極的に自分が指揮するプロセスであり、学びのグループだけではなく、日常においても同様である

 

6、学びは知識を創造するプロセスである

 

・学びを知るには、人間の知識の性質と形、そしてそれが作られるプロセスを理解する必要がある。

@知識とは個人の経験から作られる個人の知識と過去の人類が作った社会的知識の結果生まれる

@こうした客観的そして主観的経験の間の出会いから生まれる知識のことを学びと呼ぶ。

 

・学びと知識の関係を理解するには、心理学的探究の他に認識論が必要であることをピアジェ以外理解していないのは驚きである

@いろいろな仕事(手仕事、傾聴)やコンサルティングには様々な性質の知識が必要

 

・学習理論はこれらの実践的な問題にアプローチする際の見方として、弁証法的コンフリクトの結果生まれる異なる知識体系のタイプ分けを提案する

@具体的経験と抽象概念の適応モード、活動的実験と反省的観察の適応モード

@社会的知識のいろいろなフォームが世界の仮説を作り上げる

@すべての知識システムは知識と真実の性質についっての異なる仮説を基礎とした常識の洗練されたもの

 

要約 学びの定義

 

・定義は経験学習のプロセスの特徴に関するこの章のまとめとしては役立つと思う

「学びとは、知識が経験の変容を通じて作られるところのプロセスである」

 

・この定義が強調している点

@内容や結果ではなく、適応と学びのプロセスを強調している点

@知識を獲得したり移転したりする独立した実体としてとらえるのではなく、常に作られ、また再創造される変容のプロセスであるとしていること

@学びは経験の客観的、主観的な両面を変容させること

@学びを理解するには知識の性質を理解しなければならず、その逆もしかりであること