こうした「今ここの実在の流れ」について私は、ラボラトリートレーニングからより深く学んだように思う。前述の銀行員時代に、私は今ここで与えられる「水圧」のようなものを感じ、電話相談のボランティアをしていたことがあるが、その時ラボラトリートレーニングに出会った。
しかしラボラトリートレーニングの体験を重ねるうちに、こうした「水圧を感じる体験」は決して私一人にあるものではなく、多くの人が感じている比較的ありふれたものであることがわかってきた。むしろそれはあまりにも当たり前の何気ないものなので、あまり注目されないことの方が多い。
例えばグループの中で、いまここでグループの誰かが「ふと感じて言いたくなったこと」を伝えてくれ、グループが思わぬ形で展開することがその典型である。本人はその「今ここの実在の流れ」による水圧を意識化していないが、実際にはその「水圧」に従うことで関係性やグループが大きく進展している。
ラボラトリートレーニングでは、人為的に権限関係や社会的ルールなどが全くない状態、つまり社会的真空状態を作り出す。そのため参加者はこれまでに培ってきたかかわり方のパターンでは対処することができないことが多い。つまり自己や世界の物語を再検討せざるを得ない状態に置かれる。
そこでフルに自分の中を探り、新たなかかわり方、反応の仕方を探ることが起きる。その中で、自分が「いまここ」で伝えたい、かかわりたいことへの感受性が高まっていく。ある時、私は「今ここの実在の流れ」の力を確かめるために、ラボラトリーの中で一つの実験を意識的に行った。
それはグループの中でそれぞれのメンバーについて「今ここ」で感じていることを、フォーカシングの方法を使って言葉にし、そして「水圧」を感じたら、つまり伝えたい気持ちが生まれたら、それを率直に相手に伝えるというものであった。そしてそれは驚くべき効果を上げ、グループを進展させたのである。