新型コロナウィルスと今ここ

●新型コロナウィルスが日本において流行しはじめている。昨日は家の近くのビルでも患者が発生し、私にとっても他人事ではなくなっている。特に私は高リスク(致死率が20%をこえるといわれる)の80代後半の母親と同居しているので、万一にも私からうつさないように気をつけている。

 

●ところが昨日、母は地下鉄に乗って梅田まででて、日常通っている囲碁教室に行ってしまった。閉鎖空間の危険性をあれほど伝えたにもかかわらず、である。私は少しがっかりしたが、ふともしかすると今私たちには「正常化バイアス」が生じているのではないかと気づいた。

 

●災害時に脳は3つの段階を経ると言われている。第一段階は否認である。9.11テロが発生した時も、ビルにいた人たちは避難を先延ばしし、非常に鈍い行動をとったことが知られている。そこには現実に対する奇妙な無関心があり、いのちを守る行動ができなくなってしまったのだ。

 

●こうした事が起こる理由として「正常性バイアス」がある。何か起こるたびに反応していると精神的に疲れてしまうので、人間にはそのようなストレスを回避するために自然と脳が働き、心の平安を守る作用備わっている。これによって非常事態であるにもかかわらずその認識が妨げられてしまう。

 

●日々新型コロナウィルスがじわじわと広がっていること、しかも高齢者にとって危険であることが報道されている。こうした中で母が過度のストレスを避けるために、正常化バイアスという防御をしても不思議ではない。実際彼女は、高齢の囲碁友だちが、皆元気でぴんぴんしていたことをとても喜んでいた。

 

●こうした正常化バイアスは今、母一人ではなく多くの人に起こっているように感じられる。しかしこれが行き過ぎ、日常と同じ行動を皆がとると、感染リスクを増やし、新型コロナウィルスを早期に押え込む可能性をなくしてしまう。だから今こそ自分がそうした心理状態に陥っていることに気づき、対処する必要がある。

 

●災害心理学によると緊急時は感情(扁桃体)が理性に勝り、現実に起こっていることを受け容れられなくなることがある。つまり恐怖心が強くなりすぎて行動につながらなくなる。これが正常化バイアスにつながる。こうした時に一番有効なのが「今ここ」の呼吸を意識し、深くゆっくりと息を吸うことだ。

 

●呼吸は体神経と自律神経を橋渡しするので、感情を統制できるようになると言われている。その上で、もしかかってしまったら、とかこうしなければよかったとか、未来や過去に煩わされないことだ。つまりありのままを見て、起きていることを否認せず、今できることに集中することである。

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