対立を煽る人への関わり方

●ふとした出会いで『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』という本を読んだ。この本の著者ビル・エディは心理臨床を経験した後に弁護士となったが、数多くの現場で「対立を煽る危険なパーソナリティ」のために葛藤が起きていることを知り、そうした人への対処策を模索してきた。

 

●そして彼によればヒトラーからスターリン、トランプに至る危険なリーダーの共通の特性が「対立を煽るパーソナリティ」である。国のリーダーにこうした人々がついたことで、何千万もの人々が死に追いやられたと主張し、こうした人物をリーダーにしない方法を本に書いたのだ。

 

●対立を煽るパーソナリティは4つの特徴を持っている。それは標的とした相手を執拗に非難する、何にでも白黒をつける、攻撃的な感情を抑制できない、極端に否定的な態度をとることである。そしてこのパーソナリティはソシオパス(支配欲・欺瞞・良心の欠如)とナルシストの特性に支えられている。

 

●彼らは自分が他者の上に立ち、権力を握るためにまず危機を煽る。それは架空(つまり嘘)のことも多いが人々の不安につけ込むものを選んでいる。そして誰かが悪者でその危機を起こしていると攻撃する。その上で自分だけがそれを救えると訴え、権力を持つ地位につけるよう人々を説得する。

 

●例えばこんな感じだ。「ドイツの不況などの危機はユダヤ人の陰謀のせいである。既存の政府は陰でユダヤ人に操られている。エスタブリッシュではない私だけがこの危機を救える」。著者はこうした人を「いかさま王」と呼ぶ。こうした人は私たちの身近にもいて、彼らが引き起こす対立に巻き込もうとする。

 

●私が自分の不安や不満につけ込まれると「いかさま王」は、私の代わりに危機を解決してくれるヒーローに見える。熱狂的支持者になり「敵」を攻撃するようになる。自分で考える必要はなくなる。ただ「いかさま王」は状況が変化すれば自分を支持してくれた側近でさえも攻撃対象にし簡単に切り捨てる。

 

●「いかさま王」には多数の反対派がいる。しかしまとまることができない。まず「いかさま王」に対し感情的に反発する人々がいる。しかし「いかさま王」の支持者は攻撃されたと感じますます結束していく。また同じ反対派の中にもその攻撃性に幻滅して争いから距離をとる人々が出てくる。

 

●穏健派は「いかさま王」を信じないが、彼が権力を握るためなら何でもし、権力を握ればますます分断を煽ることを理解していない。だから政策が一致する部分があれば「いかさま王」を支援してしまう。また「いかさま王」は対立に際限なく精力や時間を注ぐ。穏健な人は辟易して権力を彼に委ねてしまう。

 

●「いかさま王」はこうして反対派を分断し、自分の支持者が少数派でも権力を掌握する。そして際限なく対立を煽り、人々を分断し続ける。ただ彼が力を注ぐのは真の問題の解決ではないので、人々の生活を良くする方向には働かない。むしろ無駄な対立にエネルギーを取られ、集団の力は衰退していく。

 

●私も確かに対立を煽るパーソナリティは危険だと感じる。今のアメリカを見ていると分断で力が削がれている上に、新型コロナウィルスの災いを増幅させているように見える。例えば感染予防のためのマスクが、分断のための道具に使われ、多くの人がマスクを拒否し感染の拡大を起こしてしまっている。

 

●ただ著者のようにこうしたパーソナリティを持つ人が決して変わらないとは思わない。難しいけれど体験から変わる可能性があると思っている。また全ての災いをこうしたパーソナリティを持つ人のせいにもしたくない。この人がもたらす災いを防ぐために私にできることがあるように思うからである。

 

●ポイントは一人一人が心から自分のことを大切にするかどうかにあるように思える。例えば今ここで起こっている不安や怒りにありのままに気づき自分のものとして受け入れるなら、対立を煽るリーダーに感情的に操られることはなくなる。自分が攻撃されても、必要以上に卑下することもない。

 

●事実を受け入れ自分で考えるなら、本当はそんな危機はないこと、それは協力によって解決できる問題であることに気づく。リーダーが悪者とする人々も、同じ人間として尊重することができる。心から自分を大切にする時、その人は対立を煽るリーダーが権力を握り、災いを招くことへの堤防となるのだ。

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