●先日、友人が勤める病院の管理者研修に行ってきた。そのプログラムの一つに、診療所からスタートし今の病院(スタッフ500人程度)を作り上げた前の理事長先生のお話を聴く時間があった。朴訥としたお人柄で、理念を正面から語るわけではないけれど、聴き終わってみると心に残り、こうした人生に倣って生きていきたいなと思える。
●先生は学生紛争最中に日本最高学府の医学部を卒業された。しかしその頃の医療現場で起こっていた薬害や医療事故などに心を止める。そして医療の負の部分を権威で隠さず、真実を明らかにするために医療被害の支援団体などに加わった。そのために統計学を使ってエビデンスをしっかりと集め、権威に対し科学的に反論し、余計な薬を使わない医療を志す。
●その後、地域から中央へという当時の毛沢東思想に習い、診療所から病院へという意識を持って、仲間と「思想を共有できる病院を作る」という志を立てる。そして先ずは一人前になるということで修行を積み、それから地域に診療所をスタートされた。地域の人々に必要なことを提供するために、先ずは365日・24時間診療することから始められた。
●また病理解剖なども積極的に手がけ、エビデンスに沿った安心・安全の医療を目指される。また特定の専門だけに特化せず、「何でもやってやろう」という意識で地域医療に取り組む。一方難しい病気は一流の専門医に協力を求め、うまく自分の病院に引き込んでいく。そこには大学病院に負けない良質の医療を提供するという強いこだわりがある。
●ただ地域のニーズは変化する。老人ホームに重症の人がいて、病院と福祉の境目がなくなってくると今度は地域医療センターを立ち上げる。これは地域包括支援センターという考えを先取りする取り組みであった。また先生の目はすでにこれから団塊世代が高齢化していき、同時に格差社会の中で低所得者が増える中での地域医療のありようにまで向けられている。
●私はお話を聞いて、先生が何かと闘って来られた戦士に見えた。そしてそのモチベーションはどこから来るのか尋ねたが、先生にはそういった強い意識はなく「ただひたすら一本道を歩んできた」と言われた。つまり真に患者のために真実を明らかにし、地域で良質の医療を提供するという想いに向けて、ただひたすら歩まれてきて、今に至っているのだ。
●私は先生とは従事する分野は違うが、先生のようにただ大切な想い(私の場合は今ここを大切にすることだが)に向けて「ひたすら一本道を歩む」ことをしたいと思った。あまり闘いといったことや仕事の意味など大仰なことを考えすぎず、今ここで起きることをありのままに見つめ(これは真実を明らかにすることに近い)てシンプルにいきていきたい。
●しかし同時に、今ここを大切にする具体的な方法については、従来のラボラトリートレーニングの枠組みややり方だけにこだわらず、時代の変化に合わせて人々に必要な形で、働きかけを続けたいと感じている。今ここは生きる上で大切なもので、無くなることはないが、時代によってニーズの現れ方は変わっているように思うからである。