はじめに
今回は第11回から第20回を見ていきたい。今回は基礎訓練のみを取り上げることにした。
1968年度 第11回ラボラトリー・トレーニング(ラブと略称することがある)
この年、「教会生活研修会」が「JICEラボラトリー・トレーニング」と改称された。これは教会関係者に対するスカラシップ援助が打ち切られたことと、教会以外からの参加者が増加しつつあったからである。
基本的方向性 強調されたのは“共同体の生活”“創造的に生きる”ことであった。
プログラムの特徴 Tグループが18回、全体会(G)6回、ムーブメント4回を行なっている。ムーブメントは第10回に導入されたものである。感情表現の自由さを増し、治療的効果も期待できるとして取り入れられた。この非言語的表現の要素がTグループの中に持ち込まれた影響が大きかったと評価されている。
準備会でトレーナーのTグループにけるフィードバックの介入の仕方が確認されている。それによると1)当人が欲している領域に関するフィードバックは有効である、2)個人の問題もグループ共通のものとして扱う視点を持つこと、などである。当時他の団体主催のST訓練で事故があったこともあり、このラブでも参加者の状況には細心の注意が払われている。またラブでのTグループでは、粘土・クレヨン・画用紙などの素材が置かれており、いつでも自由に使用できるようにしてあった。この素材をTグループ開始時に用いたグループもあれば、途中で言語表現に行き詰まった時に用いたグループもあった。
アンケートでこのラブで得られたものとしてあげているのは“謙虚さ”“他者との比較においての自己理解”“人間のすばらしさ”といった個人内・対人間の領域に関するものが多い。
1969年度 第12回ラボラトリー・トレーニング
この年度に第1回JICEODラボラトリー、第1回沖縄ラボラトリー・トレーニングが開かれている。
基本的方向 ラブのあり方について「管理する社会が人間関係をまずくしている。ラブが管理された社会として進められるとすればそれは問題である」「ラブを行うからにはコミュニティ意識を念頭に置いてやるという姿勢がなくてはならない」といったことが話された。トレーナーが参加者とどう関わるかについては、「Tグループトレーナーの意識だけでなく、ラブ全体の共同体づくりにもっと配慮することが必要だ」、「至れり尽くせりの配慮をし、準備をすると、かえって共同体意識の生成を抑えてしまうことになるのではないか」などの意見が出ている。また近頃「Tグループが内観的なものに向かう傾向が出てきているのではないか」集団の問題を取り扱うためには「グループ・プロセスに対処するトレーナーの能力が求められる」といったことが話し合われている。ラブのねらいは、参加者へは委員長の歓迎の挨拶の中に入れて伝えることにしている。
プログラムの特徴 Tグループを20回、全体会を7回している。一方ではTグループを続けながら、もう一方では、個人及び対人間、それからグループでの体験に焦点を合わせた全体会を行うというものである。講義形式の知的情報提供は行なっていない。フォローアップ・トレーニングに譲るという考えがあったためと思われる。アンケートでは“人間への信頼”“希望が持てるようになった”などであった。
1969年度 第13回ラボラトリー・トレーニング
スタッフ18名で多いため、準備会で相互のラボラトリー観、ラブへの期待などの交換、整理、理解するための話し合いがいつもより多く必要になったと思われる。
基本的方向 まずJICEの基本的姿勢について「人間対人間のあり方に福音的なものを求めて行こうとしている」「現在に焦点をおき、未来の変革的社会に自由に適応できる柔軟な人間が育っていくものでありたい」「人をも自由にさせる人間関係、効果的な生き方に貢献できるラブを持ちたい」というような話し合いがなされている。またフォローアップでは組織に関するものを取り上げるとしながらも「ラブという設定で取り扱えるのはせいぜいグループ状況までであり、組織となると体制などが絡むので組織変革はラブの限界を超えているのではないか」と言われ、「組織はその中にある人間の動きであり、組織に生きる人間の価値観の変革を通して組織も変わる、JICEラブはこれを志向したい」としている。
プログラムデザインの基本方針は、10人前後のかかわりのみでなく、ラブ共同体全体の成長を意図するところにより全人的成長があるという考えに立ってGセッションを持とうとしていた。キリスト教の礼拝については、思いがけない他者との交流によって根源的に人間を問うチャンスになるからラブに入れるという考えがあることが明らかになっている。
プログラムの特徴 Tグループは17回。全体会は9回。このラブでは各Tグループにオブザーバーをつけ、リサーチ研究のためにデータを集めようとしている。
1970年度 第14回ラボラトリー・トレーニング
参加者66名、スタッフ20名、前回と同じく大人数のラブである。
基本的方向 準備会でスタッフが、このラブに期待するものとして挙げたものは次のようなものであった。“人と出会うこと”“変革過程に自分を置く”“自分と他者の影響関係を知る”“受容体験を持つ”“人間の深さ、尊厳を体験する”。
デザインの基本方針として、Tグループを中心とし全体会をTの進行を見ながら入れていく。全体会には共同体としての意識を参加者が持つような要素を入れる。礼拝は“人と根源的なものとに出会わせるものに気づき、他者の介入を受け入れ、創造的に生きる力を得る時”としてトレーニングの一環と考えている。
プログラムの特徴 Tグループ19回、全体会6回、セッションと称する時間が1回ある。事後のスタッフ会では、参加者及びスタッフの人数が多すぎたこと、スタッフのチームワークがとりにくかったこと、ラブ運営上の責任の所在、リーダーシップの不明確さがあったことなどが指摘されている。
1970年度 第15回ラボラトリー・トレーニング
初めて北海道で開かれたラブである。北海道においてもラボラトリームーブメントを活発にさせようと、地元から7名のスタッフが加わった。
基本的方向 これまで東山荘で開かれてきたものと同じラボラトリーを行う、従ってラブのねらいにも変更を加えないということから出発している。
プログラムの特徴 その流れは第14回とほぼ同じである。自己の評価ではこのラブにはチャーチ・ラブの雰囲気があったと言われている。このラブは大筋では、これまでのラブに従うということで、ラブ全体としてはスムーズに進められていたが、トレーナーチーム間で準備会の段階でもう少し相互の関わり合いが必要だったのではないかという反省が出た。これはすでに経験のあるスタッフと、新しいスタッフの協働の問題として捉えることができよう。
1970年度 第16回ラボラトリー・トレーニング
開催場所が清泉に戻っている。参加者43名、スタッフ12名。
基本的方向 準備会でスタッフは「我々は何をしに来たか」ということでブレインストーミングを行なっている。整理されることなく委員長の「歓迎の言葉」に入れ参加者に示されている。
プログラムの特徴 Tグループは16回、インターT1回、Gセッションが6回である。新しい試みとして「Tグループ間の相互影響、相互援助を体験的に学ぶ」という目的で、2つのTグループが相互にTグループの実施と観察を行い、フィードバックし合うというインターTを1回行なった。
1971年度 17回〜20回の開催
5月に清泉寮内に建設中であったJICEカンファレンスセンターの完成を記念し米国よりD.ハンター夫妻、レイノルズ夫妻を招き、キリスト教教育の関係者による“Dialogue on Education”を、続いて第1回JICEトレーナートレーニングを開いている。これにはJICEラブのトレーナーたちが参加し、その後のラブ・トレーニングに有形・無形の大きな影響を与えるものとなった。この年度からJICEラボラトリートレーニング第1部はJICEヒューマンリレーションズ・ラブとなった。
第17回
参加者32名、スタッフ12名、4つのTグループが編成された。
基本的方向 準備段階でラブのねらいの作成がなされているが、その中で“グループのプロセスの中での自己発見”“感受性と行動力”“集団の診断と主体的な行動”“喜び・出会いの体験”などがあげられている。Tグループでは個人の深層心理的なところに入らないこと、個人が問題となった時でも、グループに起こっていることとして捉えていくという方針が話されている。評価的フィードバックの問題性、個人を攻めるのか、それとも気づかせるのかと言った問題も取り上げられている。デザインの方針として毎日自由時間を取ること、礼拝は朝食前とし、参加は自由とすることなどを話し合っている。
プログラムの特徴 Tグループは14回、インターT1回、全体会が7回行われた。これまでのラブではTグループが終わりの日まで続いていたが、このラブでは最終日の前日でTグループが終了し、その後、全体会でアッセンブリーゲームを行い現場に帰る準備としている。第2部を前提とせず、このラブで一応完結するためであったと思われる。
第18回
参加者45名、スタッフ10名、短期間にラブをいくつも開いていったため、準備会はラブ直前のものだけになっている。
基本的方向 ねらいはオペレーショナルなものにしようということと、積極的参加を生み出し、より効果的な学習が起こるように、参加者とのコントラクトを意識しようという動きがあった。しかし、またトレーナーの役割やそこで行うことを明確にしてしまうことが、Tグループの学習に必要でありその学びの素材である“不安”を解消させてしまうことにならないか、との意見も出されたが、ある程度は、ねらいや学習場面での枠組みを明確にして無駄な不安をなくし、共通のレベルで出発するのも良いというような意見も出されている。
プログラムの特徴 開会G—1は、
前述のように参加者との間に心理的契約を結ぶ機会を持ち、参加者が学習方法についてある程度の知的枠組みを持って出発できるようにしようとしたもので、特徴的である。その順序は(1)委員長のパーソナルな挨拶(2)学習過程の理論としてのEIAHの説明(3)学習例として実習とふりかえりの実施(4)ラブのねらいなどを示す(5)一人になって自分の持ってきたねらいと提示されたラブのねらいの統合を試みる(6)聖書朗読、賛美歌であった。
Tの回数などは17回とほぼ同じであった。変わったのは中間点で「リフレクション」と呼んで今までのTグループの動きをふりかえり、そのプロセスをまとめてみるというねらいで、模造紙・粘土・絵具などを用い作品を作り、その結果を発表している。
第19回
参加者49名、スタッフ14名。
基本的方向 ねらいを検討しているが、それはスタッフのラブ観を相互に理解するためであり、参加者には、ねらいは、第17回・18回と同じものを提示している。デザインとしてはGセッションに力が入れられた。オブザーバーによりGセッション企画担当係が作られている。当初のGはTグループの促進のために、後半からは、Tグループの学びを再び生かしてみる機会を提供する場として、そしてさらにより着実に現場に帰っていける準備をする場として考えていった。
プログラムの特徴 前半はこれまでのものと大きな変化はない。G6ではTグループに課題を持ち込みより現場に近い状況を作ることによって、Tグループからの脱出と、現場適用への手がかりとしようとしたものである。
第20回
参加者29名、スタッフ10名、北海道での2回目のラブである。
基本的方向性 準備会では、ラブ学習の現場適用を重視しようと話し合っている。個人の内的経験に止まらず、そこにあるプロセスに気がつく人になる。現場で効果的に働ける人になることが目標として話されている。
プログラムの特徴 全体の流れは第17回に近い。このラブではインターTをGセッションの枠組みで行なっている。
まとめ
70年、162名が恐らく年間JICEラブ参加者の最も多かったとしてであったと思われる。開催場所は第14回までが東山荘、第15回と20回が北海道、第16回から19回が清里であった。
ラブごとの準備会で、そのラブの方向、あり方を探る中から“ラブのねらい”が生まれている。ねらいはそのラブの基本的姿勢を示すものである。これは“ねらい”というステートメントの形で提示されたこともあれば、委員長の歓迎のあいさつの中に含められた場合もある。このねらいは、そのラブで取り扱おうとする主題の領域とその理念的目標及び実際的目標を含んでいる。各ラブごとのねらいの表現を見ると、ある時は理念的なものが前面に出たり、他の場合は実際的目標が強調されたりしている。しかし各ラブごとに多少の強調点の差はあるものの、実際にこの期間のラブで取り扱われたことは、自己・他者・対人相互の領域であり、組織社会の変革推進体になる、ということは参加者には身近なこととしては受け取られなかったようである。
プログラム運営上、強調されたことがいくつかある。第11回から14回にかけて強調されたのはTグループだけではなく、ラブ全体の共同体の生活に関わることにより全人的な学びがある、ということである。これがどのような効果をもたらしたのか明確な証拠を上げることはできないが、それがJICEラブをTグループだけを中心に行ういわゆるST訓練と違ったものにしていったということは言えるのではないだろうか。あるいは個人を共同体の中で位置づけることがJICEラブの目標から言って欠かすことができないという考えがあったのかもしれない。しかしのちになるほど、この意味での“共同体”の強調は薄れてきている。
第17回あたりから強調されたのは現場適用ということである。基礎訓練もそれなりに完結したものとして終わる必要が生じたためと思われる。第17回ラブ以来強調されたことに、スタッフと参加者の心理的契約がある。第18回ラブの開会セッションはそれを具体化しようとした1つの例であるといえよう。これはそれ以後の1つのモデルとなった。
プログラムとして全般に言えることは、やはりTグループ中心のプログラムであるということである。全体会はラブの前半にTグループの促進に役立つもの、後半に入ってからはTグループを終わって現場に帰っていく準備をするために用いられている。
ラブ直後の感想として自己・他者についての新しい肯定的認識、他者との出会いというものが非常に多く挙がっている。自己・他者、および相互関係の領域での参加者の受けたインパクトは大きく、次にグループの領域に関するものが少し出てくる。